養育費の強制執行について解説する前に、まず養育費の時効についてお話しましょう。
養育費の請求には、実は時効があります。
養育費は基本的に毎月支払われるものですが、こうした一定期間ごとに継続してお金が支払ってもらうための請求権を「定期給付債権」といいます。
と定められています。
なので、たとえば2021年8月分の養育費は2026年8月に時効になります。
また、2016年8月以前の養育費は2021年8月現在は時効が成立して請求できない、ということになります。
約束したはずの養育費の支払いが滞った場合、滞納されている養育費を回収するには、いくつかの方法があります。
それには、養育費についての取り決めをどのように行っていたか、が大きく関わってきます。
調停や審判など、裁判所が介入して養育費の支払いについて決めていた場合は、申立をすることで裁判所から履行命令を出してもらうことができます。
裁判所からの命令というプレッシャーの強いものなので、その時点で養育費の支払いを再開してもらえる可能性もあります。
履行命令を出しても支払いが再開されない場合は、ただちに強制執行の手続きをとってもらうことができます。
参照:履行勧告手続等|裁判所
養育費について、裁判所の介入なしに夫婦間での協議で話がまとまり、その内容を記した公正証書を作っていた場合は、その公正証書をもとに強制執行に踏み切ることができます。
引用:第二十二条(債務名義)・第二十三条(強制執行をすることができる者の範囲)民事執行法 e-Gov法令検索
夫婦で養育費に関する取り決めはしたものの、合意書を公正証書にしなかった、口約束やメールでのやり取りだけで書類にしなかったという場合や、そもそも養育費について何も決めずに離婚してしまった、という場合もあるでしょう。
この場合、そのままでは強制執行などの法的措置は取れませんので、相手に改めて養育費に関する協議を持ちかけるか、裁判所に申し立てて養育費調停を行う必要があります。
養育費調停(審判)で決着がつけば、先述同様、裁判所からの履行命令や強制執行という措置が可能になります。
これらの法的手段で養育費を回収するためには、前項でご説明した時効の期間内に請求を行う必要があります。
時効が成立してしまった後の請求では、裁判所からの命令を出すことも強制執行を行うこともできませんので、早めに対処することが重要です。
時効成立後であっても、相手が養育費の支払いに合意してくれるのであれば、それは支払ってもらって問題ありません。
しかし現実問題、一度養育費の支払いを渋った相手が、法的効力を失った請求に応じてくれる可能性は低いでしょう。
養育費の強制執行とはすなわち、養育費を回収するために相手の財産を差し押さえるということです。
実際に財産の差し押さえをするためには、相手がどのような財産をどこに所有しているのか、把握する必要があります。
預貯金や給料で言えば、どこの銀行のどの口座に預貯金があるのか、勤め先の企業はどこなのか、という情報がわかっていないと差し押さえのしようがないのです。
預貯金や給料からでは必要分の養育費を回収できない場合は、養育費に変えられる財産が他にないか探さなければなりません。
相手が素直に自分の財産情報を教えてくれればいいのですが、強制執行による差し押さえから逃れるために財産隠しをする人も少なくありません。
相手にそのような悪意がない場合でも、離婚した相手に「養育費の差し押さえをするから口座番号を教えて」というようなことはなかなか言えないでしょう。
そのような状況下で、相手の財産情報を調べるには次の方法があります。
弁護士会照会制度を利用すると、弁護士を介して各銀行に全店照会を求めることができます。
全店照会をすると、その銀行に相手の口座が存在する場合は支店名や残高を確認できます。
ただし、離婚後相手の住所や電話番号が変わっていてわからないなどで、相手に関する情報が皆無に等しい場合は、弁護士会照会制度を利用しても無意味に終わる可能性が高いです。
人探しや行動調査を行っている探偵に依頼して、相手の現在の住所や勤務先を調べるという手もあります。
調査の結果、勤務先だけでなく車や不動産などの金銭以外の財産状況も判明する可能性もあります。
ただし、探偵に調査を依頼するとなると、それなりに高額な料金がかかってしまいますので、よく考えて判断しましょう。
裁判所に申し立てて、相手に対する財産開示手続きを行うという方法もあります。
この財産開示手続きは、現状(2020年2月現在)では養育費調停など裁判所を介しての取り決めが成された場合にしか利用できない制度です。
しかし、民事執行法の改正により2020年4月からは、公正証書にて約束をした場合にも利用できるようになる見込みです。
また、法改正によって、財産開示命令に背いたり虚偽の開示をした場合の制裁が強化されるなど、これまでは強制執行による養育費の回収が困難だったようなケースでも、今後は養育費の回収が成功しやすくなる可能性があります。
参照:第二百十三条(陳述等拒絶の罪)民事執行法 e-Gov法令検索
相手の財産情報を把握できたら、強制執行の手続きを進めていきましょう。
強制執行を行う際のおおまかな流れを簡単にご説明します。
なお、差し押さえを行う財産の種類によって、手続きに必要となる書類が異なりますので、養育費や財産差し押さえに詳しい弁護士に相談しながら準備することをおすすめします。
強制執行までの流れも、差し押さえを行う財産の種類によって、若干違いがありますので、詳しい手続方法は事前に裁判所に確認しましょう。