民法第770条では、法的に離婚が認められる正当な理由として「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」というものがあり、配偶者からのDVはその《重大な事由》に該当します。
そのため配偶者が離婚を拒否したとしても、離婚調停や裁判などを行えば離婚はできますが、その際には配偶者からDVを受けていることを証明しなければなりません。
しかし当然ながら、自分がDVを行っている事を素直に認める人はほぼいません。
中には、自分のしている行為がDVだとは認識していない人もいますから、配偶者の証言によってDVの事実を証明するのは難しいでしょう。
そのような場合、離婚するためには、まず配偶者からのDVを証明するための証拠を集める必要があります。
配偶者からのDVがあったことを証明するために、どんな証拠をどのように集めれば良いのか、いくつかご紹介します。
配偶者から暴力を振るわれて怪我をしたら、怪我の状態を写真に撮っておいてください。
いつ受けた暴力なのかわかるように、なるべく時間が経過しないうちに撮影し、撮影した日時もわかるようにしておきましょう。
また、怪我の状態だけでなく、体のどの部分に怪我を負ったかの両方がわかるように、何カットか撮影するようにしましょう。
暴行があった際に物が壊れたり部屋が散らかった場合は、その状態も写真に残しておくと、証明するときにどんな状態であったかわかりやすいと思います。
暴力を振るわれ怪我を負ったり、DVが原因で精神疾患にかかったりしたら、できる限り病院に行き、診断書を書いてもらいましょう。
骨折などの大きな怪我や表面に見える怪我だけでなく、殴られたところが痛いというような目には見えない症状も報告しましょう。
病院の診断書はあくまでも怪我や症状を証明するためのものですが、その怪我や病気の原因がDVであることを患者から申告すれば、診断書にその旨を記載してもらえます。
これだけで完全にDVを証明できるわけではありませんが、有力な証拠となります。
受けたDVの内容を詳細に日記に書き残しておきましょう。
できる限りDVを受けたその日のうちに、どんなDVを受けたのか、どんな事を言われたのか、その時の相手と自分の状態もなるべく具体的に書いておくことで、写真や診断書など他の証拠の信憑性も上がります。
また、裁判になった際に、DVを受けた当時の事を詳細に思い出し正確な証言をするためにも、日記を付けておくことは重要となります。
DV被害を受けた側の記憶が曖昧だと、主張が通らなかったり相手の有責度が実際よりも低く判断されてしまう可能性もあるため、詳細で具体的な記録が必要なのです。
相手が怒鳴る声や殴られている音、物が壊れる音など、DVの様子がわかる録音データがあるとなお良いでしょう。
写真や日記だけだと、相手から自作自演だなどと反論される可能性もありますが、相手の音声が入っている録音データがあれば、少なくとも相手の発言内容は証明することができますし、その他の証拠と合わせて総合的な信憑性が高まります。
スマホなどの録音機能を使うのもいいですが、ペンや電卓といった日用品にカモフラージュされたボイスレコーダーを事前に録音状態にしてセットしておけば、録音が相手にバレにくくなります。
友人や自分の家族などに、夫からのDVについてメールで相談していた場合、そのメールも残しておいて下さい。
自分の携帯やパソコンのメールデータを夫に削除されてしまう可能性も考慮し、相談した相手にもメールを保存しておいてもらえるよう頼んでおきましょう。
また、相手から暴力や暴言に関しての謝罪のメールが来ていた場合や、逆に「また殴られたいのか」というような脅しのメールが来ていた場合、相手自身がその行為を認めたことになり、DVの事実を証明する証拠にもなりますので、消さずに残しておきましょう。
証拠を集めた後(または並行して)、実際の離婚へ向けた対応を取っていかなくてはなりません。
ここでは、離婚に向けた手続きや流れについて解説していきます。
DV夫との離婚は、夫婦間の話し合いですんなりとまとまることはほとんどありません。
離婚を切り出すことで、ますます暴力がエスカレートする可能性も考えられます。そのため、離婚を決意したなら、同時に家を出て(別居)手続きを取っていくことになります。
別居や離婚の手続きを取るためには、相談窓口や弁護士など第三者の介入が不可欠です。
相談窓口としては、配偶者暴力相談支援センターが有名です。
配偶者暴力相談支援センターでは、DV被害者とその子どもの一時保護や、生活支援、保護命令制度の利用など法的措置の情報提供などを行っています。
何から手をつけたらいいかわからないときには、配偶者暴力相談支援センターへ相談するといいでしょう。
最初から弁護士に直接相談するという手もあります。
弁護士に相談すれば、保護が必要な場合には配偶者暴力相談支援センターの保護施設(シェルター)を紹介してくれます。また、DV夫の接近を禁止するための保護命令の手続きや、離婚調停・審判まで、すべての法的措置を担ってくれます。
調停や裁判をすでに見据えているようなときには、はじめから弁護士に相談するといいでしょう。
いざDV夫から逃げて別居が叶っても、追いかけてくるかもしれないという恐怖はぬぐえません。
そんなときに、「保護命令」の手続きを取ることができる場合があります。
保護命令とは、配偶者から重大な危害を受けるおそれが大きいときに、裁判所が配偶者に対して接近やつきまといを禁じる命令のことです。
2~5は1が出された場合に付随して発令されるもので、単独で出されることはありません。
保護命令を申し立てるためには、あらかじめ警察や配偶者暴力相談支援センターへの相談が必要で、相談なしに手続きを踏む場合には公証人面前宣誓供述書を作成する必要があります。
手続きに必要な書面などが複雑なため、相談窓口の専門家や弁護士などに依頼した方がいいでしょう。
この保護命令は、離婚が成立した後につけまわしの危険性があるときにも、申し立てをすることができます。
第三者を立ててDV夫に離婚を打診しても、相手が聞く耳を持たないことは多々あります。
そのようなときは、調停や裁判を行うことになります。
調停や裁判では、集めた証拠をもとに離婚の可否が決まります。
証拠を集め、弁護士と相談して挑めば、離婚が否認されることはまずないでしょう。
DVの証拠として集めておくべきものを5つご紹介しました。
これらのどれも、単体では決定的な証拠として認められるのは難しいですが、複数の証拠を合わせることで、その信憑性や説得力を高めることができます。
重要なのは、DVを受けたらその都度、できる限り時間が経過しないうちに、証拠となる記録をつけることです。
詳細で有力な証拠が揃っていれば、裁判により離婚を認めてもらえたり、必要ならば夫に対して接近禁止命令を出してもらうこともできますし、DVの内容によっては、夫を刑事責任に問うこともできます。
記録を付けたり誰かに相談している事がDV夫にバレないか不安になったり、DV夫から逃げることを諦めてしまいたくなるかもしれませんが、あなた自身の命と心を守り、本来手に入れられるはずのあなたの幸せな人生を掴むために、勇気を出して地道に証拠を集めましょう。